2019年12月21日
横田広域警察24時〜落日の孤狼〜
前回はこちら
https://m14gbbshooter.militaryblog.jp/e958774.html

横田広域警察は、与えられた任務は何でもこなす。カウンターテロ、人質救出、情報収集…任務は多岐に渡る。今回の任務は比較的簡単ではあるが、なにしろ大袈裟にしてはいけない。現場に派遣されるのは1人だけ、なるべく周囲にも姿を見られないように。携行できる武器も限られる。コマンダーをホルスターに差し、予備弾倉は1本のみ。ロープロファイルの警護任務でも腰のベルトにP239と弾倉をズラリと巻いている同盟国のエージェントが羨ましい。
とはいえ、今回の相手はおそらく武装していない。彼の武器は、知識とコンピュータだ。
大陸から留学中の貧乏学生で、一見怪しいところはない。作り物のような潔白さだ。つまり、ひねくれ者の捜査官なら一発で怪しいと気付くだろう。
サイバーインテリ野郎の火遊びで我が国がトバッチリを受けることは是非とも避けたい。…サイバー分野での未熟さを力技で解決するのはスマートさに欠けるが、今更言っても仕方がない。平和ボケと慢心と怠惰が生んだ自業自得だ。
それに、「奴等」が気付いて動く前に身柄を確保し、色々と情報を得たい。
張り込み先へはバスと徒歩で向かった。周囲に溶け込み、日常の一員になりすます。大丈夫、バレてない。尾行されている気配もない。
年季の入ったボロアパートに到着した。潜伏先には丁度良かったのだろうが、手の込んだ偽装身分証が仇になり、居所はバレバレだ。あとは玄関をノックし、踏み込むだけだ。
「こんにちはーN◯Kの者です」玄関に出てくるまでしつこく粘る。ようやく出てきたところでドア越しに手を掴む。身分証を見せながら簡単に状況を告げる。
「安全は保証してやる。お前の知ってること、やってる事を全部話せ。このままだとあいつらに消されるぞ。」観念した顔で男はドアチェーンを外した。
室内にはラップトップとデスクトップが1台ずつ置かれていた。貧乏学生にしては上等なものだ。とりあえず一方的に違法行為と今後の流れ、個人の権利について説明する。ミランダルールが終わった頃、若者が顔を紅潮させながら身の上話を始めた。曰く、少数民族出身の彼の一家は両親を不当に逮捕されて離散、極貧の少年時代をどうにか生き残り、唯一の娯楽だったネットカフェで知り合った友人の支えもあって、ほぼ独学でICT関連知識を習得した。友人は実は活動家のメンバーであり、少年は政府に復讐することを目指して必死に勉強し大学に進学、もはやIT後進国となった日本で市場開拓するノウハウや、辛うじて現存するハードウェア開発技術を得るために留学を決心した。香港弾圧や強気の貿易交渉を繰り返す様子を見ているうちに、早急に始めたほうがいいと判断し、単独で活動しだした…同情したくなるストーリーだが、だからと言って我が国が巻き込まれていい理屈はない。奴等は口実さえ見つかれば執拗に喰らいつき、自国の干渉を正当化し、いずれ資源や利益を奪い取る。こいつを今すぐどうにかしないと、日本からのサイバー攻撃と判断されるか、日本に対処能力なしと口実をつけて我が国のサイバー防衛態勢に干渉してくるのは明白だった。
「言いたいことはそれだけか。貴様の話なんて知ったことか!あいつらに蹂躙されるキッカケを作る訳にはいかないんだ。ワッパはめて一緒に来るか、今ここで鉛弾を食って眠りにつくかのどちらかだ。」高圧的な態度を取ると、青年は観念したようだ。YPDの荒っぽい捜査手段は、尾鰭背鰭が付いてアングラ業界でも有名らしい。俺はこの国の子供達にコイツのような不幸な思いをさせたくないだけだ。悪気がある訳ではない。勿論必要がなければ発砲もしたくない。報告書作成が面倒になる。
「賢明な判断だ。生きていればチャンスはあるんだ。いいか、わかるな?」悪そうな笑みを浮かべながら手錠をかける。正直な話、こいつは有能だ。
今回は硝煙臭い仕事ではなかったので、いつもとは違った満足感を得ることができた。所轄に覆面パトの派遣依頼を済ませ、深呼吸をひとつ。まだ自分に人間らしい心があることを実感できたのは大きな収穫だった。
帰ったら一杯やろう。この国の行く末に不安を感じるのは、今夜じゃなくていい。…そんなとりとめのないことをボンヤリと考えながら、青年を車に押し込んだ。さて、仕事はまだ残っている。
https://m14gbbshooter.militaryblog.jp/e958774.html

横田広域警察は、与えられた任務は何でもこなす。カウンターテロ、人質救出、情報収集…任務は多岐に渡る。今回の任務は比較的簡単ではあるが、なにしろ大袈裟にしてはいけない。現場に派遣されるのは1人だけ、なるべく周囲にも姿を見られないように。携行できる武器も限られる。コマンダーをホルスターに差し、予備弾倉は1本のみ。ロープロファイルの警護任務でも腰のベルトにP239と弾倉をズラリと巻いている同盟国のエージェントが羨ましい。
とはいえ、今回の相手はおそらく武装していない。彼の武器は、知識とコンピュータだ。
大陸から留学中の貧乏学生で、一見怪しいところはない。作り物のような潔白さだ。つまり、ひねくれ者の捜査官なら一発で怪しいと気付くだろう。
サイバーインテリ野郎の火遊びで我が国がトバッチリを受けることは是非とも避けたい。…サイバー分野での未熟さを力技で解決するのはスマートさに欠けるが、今更言っても仕方がない。平和ボケと慢心と怠惰が生んだ自業自得だ。
それに、「奴等」が気付いて動く前に身柄を確保し、色々と情報を得たい。
張り込み先へはバスと徒歩で向かった。周囲に溶け込み、日常の一員になりすます。大丈夫、バレてない。尾行されている気配もない。
年季の入ったボロアパートに到着した。潜伏先には丁度良かったのだろうが、手の込んだ偽装身分証が仇になり、居所はバレバレだ。あとは玄関をノックし、踏み込むだけだ。
「こんにちはーN◯Kの者です」玄関に出てくるまでしつこく粘る。ようやく出てきたところでドア越しに手を掴む。身分証を見せながら簡単に状況を告げる。
「安全は保証してやる。お前の知ってること、やってる事を全部話せ。このままだとあいつらに消されるぞ。」観念した顔で男はドアチェーンを外した。
室内にはラップトップとデスクトップが1台ずつ置かれていた。貧乏学生にしては上等なものだ。とりあえず一方的に違法行為と今後の流れ、個人の権利について説明する。ミランダルールが終わった頃、若者が顔を紅潮させながら身の上話を始めた。曰く、少数民族出身の彼の一家は両親を不当に逮捕されて離散、極貧の少年時代をどうにか生き残り、唯一の娯楽だったネットカフェで知り合った友人の支えもあって、ほぼ独学でICT関連知識を習得した。友人は実は活動家のメンバーであり、少年は政府に復讐することを目指して必死に勉強し大学に進学、もはやIT後進国となった日本で市場開拓するノウハウや、辛うじて現存するハードウェア開発技術を得るために留学を決心した。香港弾圧や強気の貿易交渉を繰り返す様子を見ているうちに、早急に始めたほうがいいと判断し、単独で活動しだした…同情したくなるストーリーだが、だからと言って我が国が巻き込まれていい理屈はない。奴等は口実さえ見つかれば執拗に喰らいつき、自国の干渉を正当化し、いずれ資源や利益を奪い取る。こいつを今すぐどうにかしないと、日本からのサイバー攻撃と判断されるか、日本に対処能力なしと口実をつけて我が国のサイバー防衛態勢に干渉してくるのは明白だった。
「言いたいことはそれだけか。貴様の話なんて知ったことか!あいつらに蹂躙されるキッカケを作る訳にはいかないんだ。ワッパはめて一緒に来るか、今ここで鉛弾を食って眠りにつくかのどちらかだ。」高圧的な態度を取ると、青年は観念したようだ。YPDの荒っぽい捜査手段は、尾鰭背鰭が付いてアングラ業界でも有名らしい。俺はこの国の子供達にコイツのような不幸な思いをさせたくないだけだ。悪気がある訳ではない。勿論必要がなければ発砲もしたくない。報告書作成が面倒になる。
「賢明な判断だ。生きていればチャンスはあるんだ。いいか、わかるな?」悪そうな笑みを浮かべながら手錠をかける。正直な話、こいつは有能だ。
今回は硝煙臭い仕事ではなかったので、いつもとは違った満足感を得ることができた。所轄に覆面パトの派遣依頼を済ませ、深呼吸をひとつ。まだ自分に人間らしい心があることを実感できたのは大きな収穫だった。
帰ったら一杯やろう。この国の行く末に不安を感じるのは、今夜じゃなくていい。…そんなとりとめのないことをボンヤリと考えながら、青年を車に押し込んだ。さて、仕事はまだ残っている。
Posted by m14gbbshooter at 16:39│Comments(0)