2017年11月24日

横田広域警察24時〜Undercover officer “Liz” 〜②

情報活動は一見して地味なものである。むしろ、派手であってはならない。
横田広域警察に配属されてから、リズは潜入捜査官としてその才覚を発揮した。大抵の場合、女性に対しては警戒が甘くなる。体を武器にする必要はなかったし、そのつもりもなかった。むしろ潔癖症なリズは危うい場面を何度か「実力行使」で解決していた。祖父が本国から送ってくれたコルト・コマンダーはコンシールドキャリーにはいささか大柄だったが、頼もしい相棒だった。
横田広域警察24時〜Undercover officer “Liz” 〜②

リズが現場に慣れた頃、YPDは潜入捜査官をメンバーとした突入チームを編成することになった。敵の懐に入り込み、ここぞという時に小規模の部隊で急襲するという荒唐無稽なコンセプトだ。コールサインは「Raiders」に決まっていた。10人に満たない編成であったが、YPDの中でも優秀な潜入捜査官が選抜され、CQBトレーニングを基礎からやり直し、DAテクニックや初歩的なEODなどを学んだ。リズもメンバーに選ばれていた。
首都圏では変電所のトラブルや駅の停電、信号機の異常など不可解な事件が多発していた。不法分子による都市テロの事前準備と分析した当局の指示により、YPDも捜査を実施中だった。数ヶ月に及ぶ捜査の結果、市街地の雑居ビル内に不法分子のアジトがあるらしいとの情報を得て、遂にレイダースに出動が下令された。
突入作戦に参加したリズは、情報処理能力とSA(状況認識能力)の高さを買われてサポート兼連絡要員を命じられた。「まず有り得ない話だが、俺達がやられたら仇を取ってくれよ」いつも軽口を叩いている突入組長が真っ白な歯を見せてリズの肩を叩いた。任せてください、とタブレットを操作しながらリズは答えた。
横田広域警察24時〜Undercover officer “Liz” 〜②

周囲が寝静まった深夜、作戦は開始された。6人の突入要員が建物に入って数分、状況に変化は見られなかったが、リズは違和感を覚えた。嫌な予感がする…。無線機から聞こえる雑音に、一定のリズムで機械的なノイズが混ざっていることに気付いた。背中に悪寒が走った。EMPジャマー、少し前まで中東で仲間達と追跡していた厄介な軍事兵器の妨害ノイズ音だ。間違える筈がない。「Raider5 Raider3, radio check」ザリザリという音に混ざり、かすかに応答が聞こえる。「Raider5, this is Raider3, say again broken」捜索は予定通り…と聞こえた直後、ノイズが大きくなり交信不能になった。リズの隣に座っていた小隊長がすかさず「中止」を指示した。「All Raiders,abort! Abort! Abort!」無線で呼び掛けるが応答がない。建物の中からくぐもった銃声が響いた。あれは仲間の持つ拳銃の銃声ではない。恐らく、サプレッサーを付けたライフルだ。慌てて本部に応援を要請した。建物の外なら無線機は使えたが、内部との通信は途絶している。
凶々しい銃声は次第に数を増していった。応戦する銃声は瞬く間に少なくなっていく。見事なアンブッシュだった。
小隊長は周辺監視要員を呼び、内部への突入を手早く計画した。リズも当然のように志願したが、小隊長に止められた。「お前は通信員としての任務を全うしろ。増援を掌握してうまいこと援護してくれ。とんだ誕生日になっちまったな」そう言い残すと、小隊長は部下を引き連れて建物の中に消えていった。リズは自分の誕生日を忘れていたことに気付いた。
指揮システムはエマージェンシーモードに切り替え、近傍の全てのUAVへのアクセス権限を有し、通信容量もハードの限界まで増大していた。しかし、建物内部との通信が出来なくては意味がない。小隊長達らしき人影が建物内の窓越しに見えたが、容赦なく敵弾が浴びせられた。2人が崩れ落ちる姿を見たリズは、車内に残されていたショットガンを手にして飛び出した。
次の瞬間、建物は轟音と共に炎を上げ、リズは衝撃波で吹き飛ばされた。
テロリストの自爆かと考えたが、それにしては唐突すぎる。リズは上空を飛行する所属不明の友軍機がいたことを思い出した。何度か指揮システムでアクセスを試みたが拒否された。爆発の原因は恐らくあれの高高度精密爆撃だろう。
唐突にその意味を理解した。…正規軍特殊部隊レベルの脅威が国内に浸透しているなんて知られたら、この国の体制は一気に揺らいでしまう。そしてEMPジャマー…リズは中東であの兵器の鹵獲、若しくは完全破壊を任務としていた。証拠隠滅、それも徹底的な。リズは怒りで震えた。
EMPジャマーの起動には数十分のウォームアップが必要だった。つまり、奴等はこの作戦を知っていたに違いない。仲間に裏切り者がいるとは考えにくい。…この国で「センセイ」と呼ばれ偉そうにしている連中の中には、海の向こうの友達と仲良しな輩もいる。「高度に政治的なレベル」で意思決定されたらしいこの作戦は、恐らく筒抜けだったのだろう。いずれにせよ「こちら側」に裏切り者がいる。リズは拳をアスファルトに叩きつけた。
バンに戻り、状況を無線で報告した。ふと助手席に目をやると、場違いな包装紙の小包が目に入った。手に取って中を確かめると、CDケースとメッセージカードが入っていた。「Happy birthday, Elizabeth」と書かれたカードの下には曲目リストがあり、「いとしのエリー」にマーカーが引かれていた。リズは思わず笑ってしまった。
奴等のせいで2度も仲間を奪われた。核兵器も弾道ミサイルも海の向こうの話だったが、これは違う。絶対に許さない…リズは炎のような怒りを胸に刻みつけた。
増援が到着したが燃え盛るビル相手にはなす術もなく、野次馬の統制に回ることになってしまった。
翌朝のニュースでは「雑居ビルで大規模なガス爆発」「周辺住民に被害なし」と報じられた。情報統制は完璧だった。
リズは異動の意思を問われたが断固として拒否した。奴等の息の根を止めるまで狩り尽くしてやる。仲間に復讐を誓った。


ヒートシールド付きの散弾銃は肉弾戦で有利らしい。小柄なポイントマンはスラッグとOOバックを器用に使いこなし、敵を制圧するそうだ。強行突入に備え、潜入捜査官と強行班の打ち合わせは大詰めを迎えた。「突入順序は私、続いてあなた達3人だ。質問はないな?」リズは仲間に尋ねた。慌てて強行班の男が答える。
「ポイントマンは俺が…」「心配するな、あんたの弾除けになるつもりはないよ。自分のタマは自分で守ってくれ」リズは子供のような笑いを浮かべながら男の下腹部をこづいた。
「手荒なのは慣れてるんだ。テキザイテキショって言うだろ?さあ行くよ。Let'em have it!」ジャキンと散弾銃のフォアアームをスライドさせ、リズは「悪い奴等」が待つ建物に向かって歩き始めた。
横田広域警察24時〜Undercover officer “Liz” 〜②




タグ :雑談YPD


Posted by m14gbbshooter at 22:50│Comments(2)
この記事へのコメント
毎回楽しく読ませてもらっています。次回作もたのしみにしています。
Posted by 通りすがり at 2017年11月25日 10:01
通りすがりさん
コメントありがとうございますm(_ _)m
横田広域警察の活躍を楽しんでいただければ幸いです。
ご当地LEの中でもどマイナーですが、世界観作りだけは頑張ります。。これからもよろしくお願いします!
Posted by m14gbbshooterm14gbbshooter at 2017年11月25日 23:34
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