2017年10月09日
横田広域警察24時〜YPD SWAT「JEDI」3〜
この作品はフィクションです。また、写真は本文と関係ありません。問題がある場合は削除します。
前回の話はこちら
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パイロットが乗り物酔いになるのはそれほど珍しいことではない。自分で操縦していないと気持ち悪いのだ。ブルーインパルスの教官でさえイザという時のためにエチケット袋を持って飛んでいる。酸素マスクにブチまけるのは以ての外だ。
M4のチャージングハンドルは上から指で引っ掛けるようにして操作する…何事にも確実性を求めるグリーンベレー流の教えには共感できる部分が多い。ジェダイは落ち着きを取り戻しつつあった。LZまでは3マイル、うまくいけば1時間後には到着する筈だ。M4の弾倉は10本、どうにかなるだろう。
移動を開始して少し経った時、事態は急変した。ブッシュから敵の一団が現れた。相対20m、5人のグループが目の前に出現し、慌ててAKを構えようとしている。躊躇う間もなく、ジェダイはM4を構えて射撃を開始した。銃のストックを肩から外していいのは安全地帯だけだ。サイト越しに見える敵は、恐らく急襲を知り慌てて逃げ出した麻薬カルテルの連中だろう。セレクターを180度回すより早いし銃のコントロールを失いたくないから、セミオートのラピッドファイアで敵に銃弾を浴びせ、ほんの数秒で敵の排除に成功した。
ホッとする暇はない。銃声を聞きつけて敵が押し寄せてくる筈だ。ジェダイはLZ目指して走り始めた。急いで仲間と合流しなければ。しかしすぐに敵の車両らしきエンジン音が近づいてくるのがわかり、じきに怒声も途切れ途切れに聞こえてきた。殺気があちこちから伝わってくる。「焦らず、急げ」学生時代に先輩が口にしていた「非常呼集の心構え」を思い出した。
遂に進行方向にいる敵を発見した。やり過ごせそうもないと覚悟を決め、物陰に隠れて十分に引きつける。ファーストルック・ファーストシュートが鉄則だ。敵を片付けるのには数発で十分だった。
すぐに移動を開始したが、銃声を聞き逃すほど敵も間抜けではなかった。ジェダイは追いつかれるどころか、徐々に包囲されつつあった。次第に距離を詰められ、気付けば十字砲火を浴びるようになっていた。これでは企図の秘匿もクソもあったものではない。いよいよ年貢の納め時かと腹をくくり、一か八かの反撃に出た。敵を引っ掻き回し、うまく友軍相撃を誘発した後は一番弱そうな部分を攻撃して突破を図る。計画は成功しかけたが、包囲を脱出し損ねて敵に捕捉された。敵は存外に強力だった。
派手な撃ち合いが始まった。敵弾がジェダイの肩を掠めた。銃弾の消費が激しくなり、既に手持ちの半分を使ってしまっている。この分だと長くは持たない。焦りが理性を支配しかけた瞬間、あり得ない方向から敵に銃撃が加えられた。
LZに不時着した仲間達がジェダイの救援に来てくれた。どうやら三途の川はまだ渡らずに済んだらしい。ジェダイは心底ホッとした。仲間との合流に成功し、犯罪者と呼ぶには些か火力のあり過ぎる脅威から離脱した。
チヌークの撃墜により作戦は変更になったが、作戦目標を達成することはできたらしい。MH-60がジェダイ達をピックアップした後、止めに銃弾の雨を降らせ、敵戦闘部隊は潰走した。
「流石、ニンジャの末裔だな」指揮官は笑いながらジェダイに話しかけた。「お前が最初に仕留めた奴が敵のボスだ。DEAとカンパニーの連中が確認した。DEAの連中が『トランジットまで時間があるから何か御馳走したいが何がいいか』って聞いてきてるぞ」DLI英語課程入校中に妻と食べたフライドチキンを思い出し、ジェダイは思わず声に出してしまった。「ポパイのコンボ、マイルドとスパイシー。サイドはマッシュポテトで」
C-17への乗り継ぎの間、仲間と共にカリカリのフライドチキンをかじることが出来た。ポパイの箱の山を持ってきてくれたDEAの若い捜査官にどうやって手に入れたのか尋ねたが、「我々にも独自のネットワークがあるんです」とニヤニヤするだけだった。
ちょっとしたトラブルはあったが、ジェダイは無事に特殊作戦課程を卒業した。英語課程卒業時に先に帰国した妻には「異状なし」を連絡しておいた。
めでたくJTACスクールに入校したジェダイは、数週間の課程を難なく消化した。出国前にF-2乗りの後輩から話を聞いておいたお陰で、教育内容はほぼ頭に入っている内容の復習だった。
帰国直前、特殊作戦課程のチームメイトが集まり、送別会を開いてくれた。同じ戦場を経験した絆は強い。Spec Opsは特にそうだった。「Coke J tieもやるじゃないか、ジェダイ」片言の日本語で賛辞を送られる。ジェダイは苦笑しながら答えた。「JASDFでいいよ。May the force be with us!」皆が笑った。共に死線を潜り抜け、生還した仲間達のことは一生忘れないだろう。
帰国したジェダイを待っていたのは、JTAC要員養成と戦技研究を担う航空戦術教導団への異動辞令ではなく、警視庁への出向命令だった。「ポスト待ちの間だけ、2年契約だからサ。実戦経験のある幹部ってウチにはなかなかいないし、頼んだよ」と上司に告げられた。候補者が自分しかいないとなると、断る訳にはいかない。
こうして「鬼の副長」は横田広域警察の一員となった。
ポパイのチキンを食べる度に、ジェダイはあのクレイジーな旅行を思い出す。無事に生還できてつくづく良かった。
あれ以来、エマージェンシービーコンの類はガムテープでぐるぐる巻きにして脱落しないようにしている。あんなしんどい思いは二度とゴメンだ。
Posted by m14gbbshooter at 00:30│Comments(0)